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第29回日本顔学会大会(フォーラム顔学2024)報告


 第29回日本顔学会大会(フォーラム顔学2024)は2024年11月2日(土)、3日(日)にアイーナいわて県民情報交流センター(盛岡市)の7階にある小田島組☆ホール及びホールと同じフロアにある岩手県立大学アイーナキャンパスで開催され、盛会にて終了いたしました。


 本大会ではテーマを「まなざしの前(さき)にあるもの、まなざしの奥にあるもの」と設定し、このテーマの下で特別講演とシンポジウムが企画されました(開会の挨拶をする阿部会長)。



 

 特別講演ではヒト特有の目の形状と視線行動に関して独創的な発想で研究を進めておられる橋彌和秀先生(九州大学)より、『「内なる目」と「外なる目」との接続可能性—ヒトの目の外部形態の進化を巡る議論と展望』という演題で、大変有意義で興味深いご講演いただきました。

以下講演要旨より

 ヒトの視線は, 他者の⾏動や意図に基づいて学習を⾏う際, また, ⾔語学習および協⼒の ⽂脈で特定の対象を指⽰する際の, 重要な⾮⾔語⼿がかりとして機能する。この, ヒトをヒ トたらしめる⾏動特性としての視線コミュニケーションの⼼的基盤が20世紀後半以降議論 されるとともに, 形態的基盤として, ヒトの⽬のユニークな特徴が指摘され議論されてきた。すなわち, 他の霊⻑類と⽐較して「⽔平の扁平度が⼤きい(横⻑)」, 「強膜の露出が⼤ きい」そして霊⻑類中唯⼀「(種に⼀般的な特徴として)⽩⽬=強膜着⾊の⽋落が⾒られる」 ことが, 同種間のコミュニケーションにおける視線信号を強化するシグナルとして進化し た適応的形態である可能性が提⽰され, 進化⽣物学, ⼼理学, 認知ロボティックス, 神経科学を含む広範な分野に インパクトをもたらしてきた。


 これらの内容を多くの哺乳類、霊長類などの「目」の画像を提示していただきながら、ヒトの⾏動特性としての視線コミュニケーションについて、分かりやすく解説していただきました。

 

 また、2023年7月に日本顔学会関西支部において開催されたルッキズムに関する研究会の問題意識を学会全体で共有すべく、「顔学の研究と実践に潜むルッキズム」というテーマのシンポジウムが企画されました。

以下開催の主旨より抜粋

 顔の魅⼒に焦点を当てて, 魅⼒に関わる要因を洗い出すと, 顔に含まれる幼児的特徴(baby-facedness), 平均性(averageness)や対称性(symmetry)といった全体的要因が抽出されます。また, 部分的な要因としては, ⽬・⿐・⼝の形態的特徴や肌の⾊味が重要であること, さらに, 表情(笑顔)も魅⼒に⼤きく影響することが明らかになります。これらの魅⼒要因は他の研究者も繰り返し報告していることから, いわば“鉄板”要因といえます。

 しかし,顔の魅⼒を対象として研究あるいは実践をする時, どうしても“不全感”や“後ろめたさ”がついて回ります。これは私だけの個⼈的な問題なのでしょうか。それとも顔という共通のフィールドに集まる皆さんとも共有できる問題なのでしょうか。あるいは, もっと別の問題が存在するのかもしれません。フォーラム顔学2024のテーマ「まなざしの前(さき)にあるもの まなざしの奥にあるもの」は, こうした問題意識を表現したものです。本シンポジウムを通して, 顔学の研究と実践に潜むルッキズムの問題を共有し, 今後の研究と実践の⽅向性を模索してみたいと思います


話題提供者:原塑⽒(東北⼤学⼤学院⽂学研究科・准教授)

 ルッキズムに対して法 を含めた様々な対抗策が取られているが, 多様化したとはいえ, 特定の容姿の美的理想が 社会の中で共有されている以上, そこからはみ出てしまう⼈々は存在する。そういった⼈々 の美的倫理的価値は不当に低く評価され, 不利益をこうむることになる可能性が⾼い。この 問題に対して, 個⼈が取りうる対抗策はないのか。ここでは, 各⼈が, 〈その⼈らしさ〉の 表現として⾃分の容姿を作り上げ, 社会に提⽰するという⼿があることを指摘し, その意味を考えたい。


話題提供者:真覚健⽒(仙台⻘葉学院⼤学看護学部・教授)

 アピアランス問題の背景には「美的神話」と呼ばれる「美しいものは良い」といったス テレオタイプがある。このようなステレオタイプを形成するものとして,幼少期に接触す るおとぎ話のような⽂化的伝播やSNS等のメディアの影響が指摘されている。特に画像加 ⼯が容易になった現在では,SNSでは綺麗に修正された画像が提⽰されており,理想の外 ⾒が⾮現実的なものになっている。

 顔に可視的差異があることの影響を中⼼にアピアランス問題に関連したトピックスを紹介する。


指定討論者:南野美紀⽒(株式会社ベルヴィーヌ取締役副社⻑)


指定討論者:阿部恒之⽒(東北⼤学⼤学院⽂学研究科・教授)


 ルッキズムは顔学会においても常に課題になっているテーマかとも思います。「美しさ」と「差別」という、いわばトレードオフとも取れるこの難問に正面から挑んで、掘り下げていった内容だとも思いました。ルッキズムという、どこか釈然としない、解決策の見出せないでいる難攻不落のテーマですが、今回のようにディスカッションを重ねることによって、少しずつ光明が見えてくるようにも思います。

 

 

 ⼀般講演としては、⼝頭発表23 件、ポスター発表22、作品展⽰(実演も含みます)4件と企業展⽰3件が加わりました。⼝頭発表については「メイク・感性」、「開発・応⽤」、「似顔絵・イメージ」、「外⾒・美」、そして「知覚・認知」の5つのセッションに分けて実施しました。また、ポスター発表は1⽇⽬に10件、2⽇⽬に12件を実施し、作品展⽰と企業展⽰はポスター発表の時間に合わせて実施しました。顔をフィールドとして集まる多分野・多職種の⽅々との討論と交流のクロスオーバーをお楽しみいただけたかと思います。尚各賞受賞者は以下の通りです。


【輿水賞】

生成AIを活用した顔表情からの表情コピーと感情マップ生成

中村明日香、堀越月乃、遠藤洋、奥村英朗、河本優那、鞍崎愛里、齋田結衣(明治学院大学)、永田毅(明治学院大学/筑波大学)



【菅沼賞】

顔形状を反映した次世代人工皮膚モデルの開発と応用

宮地克真、山田貴亮、白石健(日本メナード化粧品株式会社)、奥野凌輔(日本メナード化粧品株式会社/名古屋大学)、五十嵐敏夫(日本メナード化粧品株式会社)、長谷部祐一、長谷川靖司(日本メナード化粧品株式会社/名古屋大学)



【オーディエンス賞・口頭発表部門】

前部前頭前皮質の活性化が顔の魅力印象に及ぼす影響—経頭蓋磁気刺激を用いた検討—

張優希、大石貴矢、水越興治(ポーラ化成工業株式会社)



【オーディエンス賞・ポスター発表・作品展示部門】

睡眠習慣の乱れが肌状態と肌の自己認識に及ぼす影響を探る

山口沙季、髙井祐志、吉川智香子、伊藤ゆき、水谷友紀、中西美樹(株式会社コーセー)



受賞者から一言ずつ



企業展⽰とポスター発表1日目


企業展⽰とポスター発表2日目



作品展示



 会場のアイーナいわて県民情報交流センター(盛岡市)は、複合施設として「知」「楽」「学」の空間概念によるゾーニングで構成されており、近未来的なガラスを多用した、先進的で優雅で美しく、それでいて、人と人とのコミュニケーションと賑わいを感じられる、素晴らしい空間での印象的なフォーラムでした。


写真撮影:福富 大介

記:斎藤 忍



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