化粧文化研究者ネットワーク 第73回研究会報告
- 3 日前
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テーマ:おしろいから細胞へ ~科学が追いかけた「美白」の理想形
①日本人が「白」に込めた願い
②古代から近代までの美白文化
③美白のメカニズムと最新技術
講演者:仁木洋子氏(武庫川女子大学薬学部 健康生命薬科学科 皮膚生理学研究室 化粧品科学)
日時;2026年3月24日 (火)
会場:関西大学梅田キャンパス
形式:対面とオンラインのハイブリッド
第73回研究会では、仁木洋子氏を講師に迎え、「白さ」が日本においてどのような意味を持ち、どのように変遷してきたのかを、文化と科学の両面から紐解く貴重な講演が行われた。
日本文化における「白」の多義性
本講演で特に印象深かったのは、「白」が単なる色彩を超え、日本の宗教観や美意識、生活文化と密接に結びついてきた点である。
古来、日本人にとって「白」は明るさや清らかさ、無垢を象徴し、白い動物や装束が神聖視されてきた歴史がある。この精神的・象徴的な価値こそが、日本人が白さに抱く強い志向の土台となっている。
また、時代とともに「理想の白」も変遷してきた。古代において神聖性の象徴であった白は、平安時代には貴族女性の美しさを示す重要な条件となる。白粉を使用できること自体が経済力や身分と結びついており、白い肌には美的価値だけでなく、階級的な意味も含まれていた。当時の生活環境や文学作品の表現からも、白い肌が理想的な女性像と強く結びついていたことが理解できた。
さらに江戸時代になると、白さは一部の特権階級の象徴から庶民へと広がっていった。白粉で隠すだけでなく、肌そのものを整える工夫も重視されるようになった点が印象的であった。講演で紹介された当時の洗顔料の再現や実践例からは、現代のスキンケアに通じる発想や科学的視点がすでに芽生えていたことがうかがえ、非常に驚いた。
このように、白さは「つくるもの」から「自ら整え、磨くもの」へと変化してきたと考えられる。これまで、美白を主に現代の美容意識の一側面として捉えていたが、本講演を通して、その背景には長い歴史と文化的な積み重ねがあることを改めて理解することができた。白さは単なる外見的な特徴ではなく、日本人の価値観や理想を反映した重要なテーマであると感じた。化粧や美しさの基準は普遍的なものではなく、それぞれの文化の中で形づくられるものであることも強く感じた。
皮膚科学が拓く「美白」の最前線
現代の美白研究は、表面を覆う「おしろい」の文化から、細胞レベルで「透明感」や「内側の輝き」を追求する科学へと深化している。美白剤の開発は、チロシナーゼ阻害を中心ととした第1世代から、表皮細胞との相互作用を制御する第2世代、そして皮膚全体の均一化を目指す第3世代へと発展しており、現在のメカニズムと最新技術についてご説明がなされた。
肌の色は、表皮の「メラニン」と真皮の「ヘモグロビン」の総和によって決まる。メラニンには、茶褐色の「ユウメラニン」と黄褐色の「フェオメラニン」があり、その混合比率が人種や個人の肌色に影響を与える。
本来、メラニンは有害な紫外線から細胞核を守る「メラニンキャップ」として機能する、生命維持に不可欠な存在である。しかし、その過剰な蓄積はシミの原因となる。講演では、メラニンキャップの紫外線防御作用はアジア人でSPF2~3程度と推定されていることが示され、非常に印象的であった。
さらに興味深かったのは、手のひらが白い理由として、真皮から分泌される美白因子「DKK1」がメラニン生成を抑制しているという知見である。老化した線維芽細胞ではこの抑制機能が低下するため、今後は真皮をターゲットとした新たな美白戦略が期待される。
また、タンパク質の「糖化」や「カルボニル化」が肌の透明感を損なうプロセスについても言及され、美白とは単なる色素沈着の抑制ではなく、肌全体の健やかさを維持することにほかならないと実感した。
まとめ
討論では、美白の定義や「筋力向上と美白の関係」など、多角的な視点から意見交換が行われた。本講演は、日本人にとっての「白さ」の意味や歴史的背景から、最新の皮膚科学が明らかにした細胞レベルのメカニズムに至るまで、その変遷を多角的に捉える内容であった。
(高野 眞生・李 心庭)

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