top of page

『ゴーストティントメイク』がグランプリ受賞!



『未来の顔』コンペティション グランプリ受賞のご報告  髙松 操(TAKAMATSU Misao)様

このたび、顔学会30周年記念シンポジウムにて開催されたコンペティション『未来の顔』において、拙案『20年後の流行メイク』がグランプリを受賞いたしましたので、謹んでご報告申し上げます。

『20年後の流行メイク』

これまで強調することを目的としていたメイクは、その反動とし“なじませる“メイクが流行する。

カラコンは淡い虹彩色で瞳の輪郭の不明瞭にすることを目的とし、肌と唇の境界をぼかすリップライナー、肌の色と同化するヘアカラーについで、肌色ニュアンスカラーの眉毛とまつげが流行。フェイスラインを強調することを目的としていたシェーディングパウダーの代わりに、フェイスラインの影をなくす拡散反射パウダーが必須アイテムに。顔を立体的に見せるというより、ただただなだらかに均一さを求め、もはや小顔という概念もなくなり、顔と体の境界も不明瞭に・・・。

他人の顔から機嫌を伺うことが不可能になった人々は、顔どころか自分の姿が周りの人や風景から際立つことさえダサいと考え、どんな色彩や柄を駆使すればカモフラージュできるかを探求、自分がどこにいるのかわからないスナップショットをSNSにアップロードするようになる――。

自分と環境、自分と他人の境界さえ不明瞭になっていく世界で、さて、”自分”という感覚もまた他者や環境と一体化していくのか、はたまた、逆に”自分”という存在だけは際立って感じられるのであろうか・・・。



きっかけと妄想の源泉

このアイデアの発端は、「アキュビュー® ディファイン®」の世界発売20周年というニュース*でした。当初、奇抜にも見えたこのコンタクトは、今や美的装飾の一つとして定着しています。ここで、目を大きく見せることが美の前提として無意識に内面化されてきた構造に改めて気付きました。

しかし、近頃、この『視覚的主張=魅力』という図式に対して、微細な抵抗感が現れはじめているようにも思えます。私自身、そうした美のテンプレートに対する違和感と倦怠感を抱いており、「目を大きく見せることに価値を見出さないとしたら、どのような表現が可能か」と妄想してみることにしました。

加えて、近年よく耳にする「目立ちたくないが承認はされたい」という若者の傾向──。

それらから導かれたのが、”目立つ個性”ではなく”なじむ個性”をいかに演出するかというメイクや装いでした。

やがて思考は、「人は、なじむことを美徳とするようになるのか?」という個と社会のあり方そのものへの問いにまで広がっていきました。



『自分で選ぶ』ことを、私達は選べないのだろうか?

私自身は、メイクとは『流行』に従うものではなく、一人ひとりがなりたい自分を選び、それを自由に体現する営みであってほしいと願っています。けれど現実には、どこからともなく理想像が立ち現れ、それに市場と技術が群がり、人々はこぞって最適化へと突き進む──。あとは理想像への距離がより近いものが勝ち、遠いものは置き去りにされる。それが、美という名の競争の構造なのかもしれません。

私は、20年というスパンではこの力学から人々が自由になるビジョンは思い描けませんでした。結果として、結局人々は『流行』を選ばされてしまうのだろうという予感と諦めの未来予想となってしまいました。

そして今、グランプリという結果をいただいたことで、その構造を打破する提案にたどりつけなかった自分を不甲斐なく感じています。



共感の声とサプライズ

ネガティブな未来像であるため、「入選できれば御の字」と思っていたこの提案が、まさかのグランプリに選出されました。嬉しいサプライズとともに、会場の方々との静かな共鳴を感じ取ることができたのは、何よりの収穫でした。

イラスト化を担当くださった橋本憲一郎先生は、「半透明の似顔絵は、日常的には環境に同化し、必要なときだけ自己を浮上させる存在の表現」と評して、視覚的に抽出してくださいました。審査員長の阿部恒之先生からは、『先生、どうか皆の前でほめないでください』という書籍を引用しながら、現代の学生たちの姿との重なりをご指摘いただきました。オーディエンスの方々からも、「こうした“なじませメイク”の未来は、実際にあり得るかもしれない」といった声が寄せられました。

この提案は、単なる私一人の妄想的ビジョンではなく、多くの人がどこかで感じ取っていた感覚だったのかもしれません。

ちなみに、橋本先生の半透明の似顔絵に触発され、このメイクのコンセプトを**『ゴーストティントメイク』**と名付けてみました。



 顔学会ならではの賞品

そしてもうひとつのサプライズ――。

当日いらしていた審査員の方々が、私の似顔絵を7枚も描いてくださいました!『顔』という存在そのものを見つめ、描き、思考するこの学会ならではの、象徴的な、そして一生忘れられない贈り物でした。




改めて、思い切って応募して本当によかったと感じています。最後までお読みくださり、ありがとうございました。



参考

アキュビュー® ディファイン® 20周年ニュース※世界発売は2004年、日本発売は翌年の2005年。つまり、2025年が日本発売20周年となります。

Comments


  • Facebook
  • X

Copyright © 日本顔学会 2024 , All rights reserved. 本サイトの無断転用を禁じます。

bottom of page