生成AIと“自画像”──プロフィール画像をめぐる小さな実験
- kaogakunlcollab
- 10月31日
- 読了時間: 9分
更新日:11月5日
はじめまして。 このたびニューズレター編集委員に加えていただきました、髙松操と申します。
私は化粧が好きで、一度は化粧品会社の研究員になったのですが、色々と考えるところがあり、退社して「きれいな肌とは?」をテーマに、フリーで研究をしてまいりました。現在は縁があり、肌測定にも使える光学測定機器の会社に勤めながらひっそりと肌と化粧について研究しています。
今回は、自己紹介を兼ねて、最近行ったちょっとした試みを紹介させていただきます。
生成AIにプロフィール画像を描いてもらいたい
みなさん、プロフィール用に自分の顔写真を撮るのは面倒ではないですか?
今回、編集長から「プロフィールページを作成してください」と依頼を受けたのですが、手持ちに使えそうな写真がありません。となると新しく撮影するしかないのですが、いざ撮ろうとすると、服装を考えたり、美容院に行ったりと準備が必要です。そんなことをあれこれ考えているうちに、だんだんと腰が重くなってきました。
「もっと手軽にどうにかならないものか……」と考えていたときにふと、「そうだ、生成AIに似顔絵を描いてもらえばいいのでは?」と思いつきました。
使用したのは Google Gemini 無料版(2025年5月時点)。Geminiを使うのはこれが初めてです。今回は、文章だけで自分の見た目を説明し、プロフィール画像として使えるレベルの似顔絵が生成されるかどうかを試してみました。
まずはプロンプトを入力します。
「あのね、私の似顔絵を描いてほしいの。油絵風で、タレ目、金髪ショートカット、鷲鼻、エラが張っていて、口角と頬が上がってるよ。頬はふっくらしているよ。」
生成AIに友達のように気さくに話しかけるのが最近のマイブームです。油絵風の表現も同じくマイブームです。「はい、これがあなたの似顔絵です。プロフィール画像に使えると思います。」と返事とともに下記の画像が出てきました。

成功しそうな手応えを感じる
生成された画像を見ると、日本人ではないようですが、顔の特徴はそこそこ捉えられているように思えました。微調整を重ねればいけるかもしれない——そう感じました。
しかし、髪型やえくぼなど細部の修正を依頼すると全く別人のようになり、さらに修正を繰り返すと以下のように、顔としての形状が破綻してしまいました。どうやらAIは“同一人物性”を保つのが苦手なようです。
左から、生成AI作成プロフィール画像 2, 3, 5番目 いずれも1の画像から微調整を繰り返したもの
ここで一度リセットし、最初のプロンプトに「日本人女性」「アクリル絵の具風」「横顔」と条件を付加して再び指示しました。
今度はキリッとした雰囲気の女性像が現れ、「これが私だと言い張りたい」と思うほどかっこよく仕上がりましたが、残念ながら似ていません。さらに「ツリ目をタレ目に」「鼻を鷲鼻に」と修正を指示すると、また別の人になってしまいました。
AI作成プロフィール画像 6番目(左)と、ここから微調整を繰り返した画像8番目(右)
AI画像生成は微調整の過程に課題があるようだ
どうやら、生成AIによる似顔絵は部分修正が難しいという課題がありそうです。ここで、以前の画像を引き継がず、その都度あらためて特徴を文章で伝える方式に切り替えました。
この時点で試行回数が13回となっており、疲れて少しイライラしていたのも事実です。そんな中、Geminiが「これが新しい画像です。今回のご要望に基づいて、日本人女性の似顔絵を、よりリアルな油絵風に描いてみました。いかがでしょうか。」といって以下の画像を出してきました。

Geminiのことが嫌いになりかけました。 「こんなにシワやたるみはないはず」と反論しかけて、ふと手が止まりました。
本当にそうだろうか?
そう思った私は作業をやめ、鏡の前に立って、しばらく自分の顔を見つめてしまいました。
AIに"人格らしきもの"を感じてしまう
結局、私はこの日から二週間ほど、Geminiと”話す”ことができませんでした。13番目の画像は、輪郭や頬の肉付き・鼻の形などの特徴が再現されてり、見れば見るほど”私っぽい”のです。その一方で、こうは見えたくないと思う姿なのです。この画像を見ていると、「勘違いしているかもしれませんが、客観的に見たあなたの姿はこれですよ」とAIに言われているような気がしてきます。
毎日鏡で見ているはずの自分の顔も、実際には“見たい自分”というフィルターを通して見ているだけなのかもしれません。そのフィルター越しの自分を、生成AIが見抜き、あざ笑うようにあの画像を出してきたのではないか──。そんな不安に取り憑かれてしまいました。
もちろん、AIにそんな意図があるはずはありません。それでもなぜ、私はそこに“感情”を感じ取ってしまったのでしょうか。
主題とずれるので詳しく書きませんが、生成AIに人格のようなものを感じてしまうのは私だけではないようです(下記の参考資料参照)。昔から、人工知能に人格が宿るというのはSFの定番ですが、現実では、AIの機械的な言葉に“人格”を見出してしまうのは、受け取る人間の側なのかもしれません。だとしたら、人工知能は、私たちの内側に潜む「恐れ」や「希望」といった感情を、思いがけない形で呼び覚ます存在になるでしょう。
参考資料
ツールメディア WA2 記事「AIを信じすぎた人々が迷い込むもうひとつの世界」
はてな匿名ダイアリー「chatGPT、ちょっとやばいかもしれない」
AIを信じて正直に打ち明ける
この企画をお蔵入りにしようかとも思いましたが、最後の女性の絵が何度も脳裏に浮かぶので、このモヤモヤに決着を着けることにしました。改めて自分のプロンプトを見返すと、頑なに年齢を書いていなかったことに気づきます。私は43歳ですが、年齢という数字に自分が思っていた以上に敏感であることを、このとき初めて実感しました。また、「AIに“43歳日本人女性”と言って、果たしてまともなプロフィール画像が出てくるのだろうか」という疑念もありました。そこで試しに、素直に「金髪の43歳日本人女性」を描くように指示してみました。
左から、AI作成 「43歳金髪日本人女性」画像 2, 4, 5
これらを見ると、Geminiの方がむしろ“43歳金髪日本人女性”という存在をよく理解しているように思えます。そこで思い切って、年齢だけでなく体重やBMIといった数値も正直に伝え、再チャレンジすることにしました。また、AIはウェブ上の語彙に強いことを踏まえ、ディテールの説明にはウェブ上にある用語を使うことにしました。たとえば、私のようなパーマのショートヘアは、美容サイトでは「外国人風ショートカット」と呼ばれていたので、この用語を採用します。髪色やメイクも、実際に使用している商品の名前を、メーカーのサイトで表記されている名称を使って指定しました。
ちなみに、AIに人格があるかのような錯覚への対策として、友人に話しかけるような口調をやめ、淡々と依頼することにしました。
するとプロンプトはこんな感じになりました。
ポートレートの作画をお願いします。43歳の日本人女性。身長〇〇センチ、体重〇〇キロ、BMIは約〇〇。 顔の特徴はエラ張り、タレ目、鷲鼻で、頬の肉付きは良い。 髪型は金髪の外国人風ショートカットで、前髪は鼻の頭あたり。髪色はエンシェールズのプラチナシルバー。チークはCANMAKEのクリームチーク[21]、リップはRom&ndのリップマット05、眉はKATEのデザイニングアイブロウ3D EX-4。メンズライクな水色と白のストライプシャツを着用。背景は公園など自然をイメージし、体の向きや視線に動きをつけてください。
AIは、何も指定しないと無地背景・正面向きのポーズを選びがちで、その場合どこか不穏な印象になるため、背景やポーズも指示しました。
上段左から、AI生成画像 20, 21, 22, 25, 30, 32番目
多数の生成結果の中で、最も私に近いと感じたのが次の画像でした。

AIは"美人"を描く
生成AIは、特に条件を与えなければ、際立った特徴のない“平均顔”に近い顔を描く傾向があるようです。結果的に、それは”美人”として出力されます。自分に似せるためには、自分の顔の特徴を言葉で分析し、抽出しなければなりません。私の場合はエラ張り、鷲鼻、肉付きのよい頬などを挙げましたが、それでも出てきた画像は恐縮するほど整っていました。どうやら私は、まだ自分の顔を十分に言語化できていないようです。
結局のところ、生成AIは、「これが自分のプロフィール画像です」と言い張れるプロフィール画像は作成できませんでした。そして最終的に、私はカメラを持って実際の撮影に出かけたのでした。最初からこうする方が早かったのは言うまでもありません…。
AI作成プロフィール画像 26番目(最も似ていると思われた画像)と本人の画像
AIが変える"自己像"のかたち
軽い思いつきで始めた作業でしたが、生成AIと人間との関係性や、自分の年齢への執着といった重いテーマに思わず相対することになり、想定外の時間と精神力を費やす試みとなってしまいました。AIに描かれた自分の顔と撮影した自分の顔を見ながら、生成AIの登場によって"肖像"というものも随分変わるのではないかと感じました。
今回のAIとの対話によって、人の自分自身の姿への想いと、何でも自分の思い通りになるはずと信じて使う生成AIというツール、このかけ合わせの興味深さとちょっとした恐ろしさに触れたような気がします。
新しい画像生成モデル Nano Banana 登場
この記事を書いている最中に、衝撃的なニュースが飛び込んできました。Gemini に新しい画像生成モデル 「Gemini 2.5 Flash Image」、通称 「Nano Banana」 が登場したというのです。
最大の特徴は「キャラクターの一貫性が高い」こと。 一度生成した人物やキャラクターの特徴を記憶し、服装や背景、ポーズを変えても“その人らしさ”を保ったまま、さまざまなバリエーションの画像を作れるそうです。
さらに「対話型編集」も大きく進化しました。これまでの画像生成では、一度で長いプロンプトを入力しなければならず、あとから細かく修正するのは簡単ではありませんでした。しかし新しい Gemini では、会話をするように段階的に画像を調整できるとのこと。
──これらは、まさに私が5月から悪戦苦闘していた部分の改善点そのものです。この記事を書いている2025年10月現在、もし同じ作業をもう一度行えば、もっと簡単に、より自分らしいプロフィール画像が作れたのかもしれません。 私の試行錯誤は無駄だったのでしょうか?それとも、私の苦労が、Gemini の進化を後押ししたのでしょうか。 真相はわかりませんが、次にプロフィール画像を作るときは、Nano Banana にもう一度挑戦してみたいと思います。
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とっても参考になります!ありがとうございました。